『すばらしき世界』を観て。

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この映画を観たことを残しておきたいと思った。日常の中の冷たさと温かさ。普通に生きている時は存在さえ意識しない空気のようなものだけど、時に透明な壁となって誰かを突き放したり、時にじんわり誰かの心にしみこんだり。見えるようで見えていない、はかなく、危うく、一片の優しさに満ちたすばらしき世界。人が生きていくこと、そのもの。


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映画を観て、おじさんのことを思い出した。おじさんは病気だったから、大学を卒業してからほとんど働かずに、ずっとおじいちゃんとおばあちゃんと住んでいた。10年以上前に、おじいちゃんもおばあちゃんも亡くなって今はひとり暮らしをしている。


おじさんは私が小学生の頃、自殺しようとした。ちょうど夏休みで、おばあちゃんちに遊びに行っていた時。何かの薬を大量に服用したみたいだった。その夜は怖くて眠れなかったのを覚えている。おじさんが何の病気だったのかはっきり聞いた記憶はないけど、今だったら、うつ病などの診断がつくのかもしれない。


子供の私には、おじさんがずっと家にいても仕事をしてなくても、それが普通だったし、疑問に思うこともなかった。でも、おじさんはずっと生きづらい世界を生きてきたんだと思う。


おじさんは質素倹約を旨として、便利で快適な現代生活とは距離を置いている。ネットもスマホもなく、今も黒電話を使っているはず。社会と積極的に関わることもしない。でも、コロナ前は、月に数回、外国の子供たちに算数を教えていると言っていた。言葉の問題で日本の勉強についていけない子供たちへの支援。その活動を主導する団体の切り抜きやチラシをたくさん見せてくれた。でも、コロナになって、その活動は休止になってしまったと聞いた。


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私は東京という大都会で、見たいものだけを見て、小さな世界で生きている。「すばらしき世界」の弁護士の先生の言葉が苦しい。「本当に必要とするもの以外、切り捨てて行かないと自分の身を守れないから。すべてに関われるほど人間は強くない」。


今日はセールで買ったワンピースが届いたから、スカーフやらブローチやらを合わせてひとりファッションショーをして、床暖房の上で「すばらしき世界」の原作を読み、アマゾンプライムで「すばらしき世界」を観て、今こうしてブログを書いている。


おじさんは、どんな一日だっただろうか。



「すばらしき世界」の原作