誰かに嫌われるということ

小学6年生の時、同じクラスの友達に工藤静香のシングルCDを貸した。しばらくして返ってきたそのCDの盤面は傷だらけになっていた。何本も何本も、縦に横に、線が入っていた。


今は分かる。その子は私のことがキライだったのだと。どの傷も自然についたというには、あまりにもくっきり、はっきりしていたから。


でも、当時はそんなこと想像もしなかった。私は呑気にもその子に「CDにたくさん傷がついてたけど何か知ってる?」と聞いた。返ってきたのは「知らない」のひと言。


私は、なんでこんなに傷がついちゃったんだろうなぁ…とは思ったけど、傷だらけでもCDは再生できたし、それ以上気にすることもなかった。まして、その子が私のことがキライだなんて思いもしなかったから、私はその後も普通にその子に接していた。


鈍いというか、空気が読めないというか、私はバカなのかもしれない。


私はあんまり人をキライになることがない。だから、人を嫌うという感情に鈍感で、自分が嫌われていても気づかないんだと思う。


◆◆◆


私はこの4月に異動になった。突然の異動。火曜日の夜に異動を告げられ、金曜日に送別会、翌月曜日には新しい職場へ。異動を告げられる前日、上司にこれからやりたいことを話したばかりだった。異動が決まっているなんて知りもせずに。


それまでの歴代の上司は前もって異動を教えてくれていたから、今回のパターンには戸惑った。世間ではこれが普通なのかもしれないけれど。


自分の企画を全部手放さなくてはならなくて、目の前に続いていた道が突然途絶えてしまったような喪失感。その部署の仕事でお世話になった社内外の人たちに急にサヨナラをするのも、とてもとても寂しかった。たかが異動でバカみたいだけど、ごはんを食べたり、寝たりするのも忘れそうなくらいで、なんだか失恋した時みたいだった。


異動先はちょっと特殊な部署。うつ病から復職した人など、事情を抱えた人たちが集まってる。でも、上司が考えてくれた異動だから頑張らなきゃって思って、ひとりで走ってた。というより、走ってないと沈んでしまいそうだった。蕁麻疹が出たり頭痛がしたり、それなりにストレスを感じていたけど、前だけを見て、やるべきことに集中しなきゃって思ってた。


そんな中、届いたのが、その上司がつけた私の昨年度の評価。これまでもらったことのない悪い評価だった。さすがにちょっと凹んだ。でも、去年の評価がどうであろうと今私がやるべきことは変わらない。とにかく前を向かなくっちゃと、また一人で走ろうとした。


でも、ちょっと限界だったのかな。私を昔から知ってる先輩が「大丈夫か?」って声を掛けてくれて、それまで我慢していた涙があふれてしまった。


私は泣きながら異動の経緯を話した。ひと通り話を聞いた後、先輩は少し言いにくそうに「適切な表現か分からないけど…」と前置きして言った。


「その上司はお前に意地悪したんじゃないのか?前の部署で何があったんだ?」


イジワル・・・


その時はじめて、私は前の部署で上司に疎まれていたんだ、って認識した。


確かに私は、かわいくない部下だった。上司と意見が違うことがたくさんあって、それをそのまま主張してた。私はその部署で唯一の技術系の社員だったし、色んな意見をテーブルに載せて議論を深めていくことが大事だと思ってたから、言うべきは言わなきゃって思ってた。


でも、私のやり方は良くなかったんだと思う。生意気だっただろうし、負担をかけてしまったのだと思う。


私はその上司がとても好きだった。意見は違っていても、だからこそ一緒に働く意味があると思っていたし、頭が良くて尊敬もしてた。異動先の新しい部署はしんどくても、なんとかここで頑張って、いつかまた笑顔でその上司に会いに行こうって思ってたんだ。


でも、そんなこと求められてないし、迷惑になるんだな…って。


◆◆


昨日、用事があって、異動後はじめて前の上司に電話をした。私の声は弱々しく、震えていた。まるで自分の声じゃないみたいだった。


10人いれば、2人には好かれ、6人はどっちでもなく、2人には嫌われるのだと、頭では分かる。あとは、現実を受け入れる強さが欲しい。