なわとび

夕食の後。


「あ、ママ、明日学校でなわとびいるんだ。でも、ぼく、これ持って行くから大丈夫。」


そう言って、息子が持ってきたのは、あちこち折れ曲がったなわとび。何年か前に雑誌のオマケで付いてきたもの。オマケだもん、そんなにいいものじゃないから、簡単に折れ目がついちゃう。


ええと、そんなのじゃなくて、去年、使ってたのがあったはず…。数百円のごくごく普通のなわとびだけど、雑誌のオマケよりはちゃんとしてるのが。


でも、そういえば、最近見てない…。


イヤな予感。


ないっ・・・ ない、ない、ないっ!!


案の定、部屋中を捜索するも、見つからず。


◇◇◇


そして、私は怒ってしまった。


「なんで去年のをちゃんとしまっておかないの!!」


「自分のものは自分でちゃんと管理して!!」


「それに必要ならもっと早く言って!」


「帰ってきてすぐ教えてくれたら買いに行けたのに!」


「・・・」


まくしたてる私に、うつむく息子。


◇◇◇


・・・ごめんね。


怒るようなことじゃないよね。


ちゃんとしたなわとびを持って行かせたかったんだ。息子は私に似ちゃって、そんなに運動が得意じゃないから、折れ曲がってるのだと跳びにくいかなって思って。せめて普通のなわとびを持たせたくて。


世の中のお母さんたちは、子供がおうちに帰ってきたら、ちゃんと次の日の用意を確認するのかな。私はいつも遅い時間に帰ってきて、バタバタと夜ごはんをつくって、お風呂に入って…、明日の用意なんて確認してあげる余裕がなくて。


数か月前の息子の言葉がよみがえる。


「うちの生活ちょっと変じゃない?アキラくんのうちは、パパもママも毎日7時には帰ってくるんだよ、絶対。」


この時は言葉がなくて、ごめんねと胸の中でつぶやいた。


働く母の葛藤。


◇◇◇


次の日の朝、息子の友達はみんなスポーティでいかにも跳びやすそうななわとびを持ってた。胸の奥がチクッとした。


小学校の連絡帳がデジタルになって、親子でタイムリーに明日の持ち物を共有できたらいいのに!なんて一瞬思った。そしたら、なわとびなんかでバタバタすることもない。


でも、そんなの管理志向すぎる。それに、そこまで便利じゃなくていい。多少のイレギュラーがあってこそ、たくましくなるのだ。母も子も。そう思うことにする。


それにさ・・・。


どんどん便利になって、ストレスなく働けるのは素晴らしいけど、そしたら私は、何も考えずに仕事一色になっちゃいそう。だから、時々は胸の奥がチクッとすることがあった方がいい。


自分にとって本当に大事なことは何なのか、何のために働くのか。葛藤があるからこそ、時々立ち止まって考える。