「もう1分たりとも後輩のためには使わない」と宣言した日

後輩との出会い


一年半前のこと。チームに新しく後輩が入って、私はその後輩の育成係になった。


私 「将来どうなりたい?やりたい仕事とかある?」
後輩「うーん・・・キラキラしたいです!」
私 「・・・」


これが、ちょっとしたカルチャーショックのはじまりだった。


後輩はやることをメモしても、そのメモを見るのを忘れてしまう。部長に頼まれたこともすっぽかして、いつの間にか帰宅。ちょっと厳しく言われると、数時間トイレにこもって戻ってこない。


これは・・・いったい・・??今までどうやって仕事してきたんだ??私には後輩の言動が理解できなかった。


モヤモヤすること数か月。


実際はモヤモヤなんてもんじゃなくて、後輩に対する怒りで眠れない夜もあったくらい。ちょっと入れ込み過ぎだった・・・今から思えば。


とにかく普通の仕事さえ回らないから、後輩の仕事の難易度を下げた方がいいって先輩に訴えた。でも、後輩のモチベーションが下がるからという理由で、あえなく却下。


こっちはとっくにモチベーションダダ下がりなんだけど・・・!


なんて心の叫びは飲み込んで、しかたないから必死に後輩をフォローしてた。今思えば完全にやりすぎだったけど、後輩のフォローと自分の仕事で毎日1~2時間しか寝る時間がなかった。目覚まし時計を夜中の2時にセットする毎日。


でも、そんなのずっと続けられるわけないよね。ある時、お風呂上がりの子どもの髪を乾かしながら、スーッと自分が消えていなくなっちゃうような感覚がして、急に涙がポロポロこぼれてきた。


たぶん、もう限界だった・・・。


背を向けた私


「私の時間は、もう1分たりとも後輩のためには使いません!」


私は、そう先輩に言い放って後輩の育成係を降りた。後輩が来て10か月目のこと。


それからは、先輩が育成係になった。あいかわらず後輩はトイレにこもったりしてたけど、先輩は、丁寧に丁寧に接して、後輩は徐々に成長していった。


でも、私はずっと納得ができずにいたんだ。本来は家庭教育で教わっているべきレベルのことを、どうして会社で、どうしてこれほど力をかけて教えなきゃならないのかって。


チームで切磋琢磨する時間は全然なくなっちゃったし、先輩もチームの司令塔となるべき人なのに、後輩に時間を取られて本来の力を発揮できてないように見えた。後輩が成長していく一方で、刻々と失われていくものが大きすぎるって私は思ってたんだ。


当時、たまたま読んだこの本に心の底から共感。

  • 会社は学校ではない
  • ダメな人の成長に注力するより、フォワードをトップスピードで走らせるべき
  • 優秀な人にモチベーションを上げる必要のある人をつけるなんて非生産的

シンプルに考える

シンプルに考える

  • 作者:森川亮
  • 発売日: 2015/05/29
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


終わりは突然に・・・


数か月後、急に後輩が異動することになった。


あまりに早い。それも遠くへ行ってしまう。状況が飲み込めずにいる私のところに、後輩がトコトコやって来る。私の机の横にちょこんとしゃがんで。


「最初の頃、色々と指導してくれてありがとうございました。教えてもらったことはノートに書いてあるので、これから活かしていきたいです。」


予想もしてなかった言葉。聞いた瞬間、目の前の壁がバラバラと崩れ落ちて行くようだった。


本当にごめん・・・って。


その数か月前、後輩の写真を撮ることがあった。カメラを向ける私に、後輩は戸惑ったような困ったような笑顔をしてたなって。その時の後輩の居心地の悪そうな表情を急に思い出した。


あ・・・。私はなんて先輩だったんだろう・・・。


仕事にミスがないようにとか、チームのパフォーマンスばっかり考えてて、後輩の気持ちを考えたことがあったろうか・・・。


私は先輩だったのに、これまで歩み寄ることができなかった。私からは何の武器も持たせてあげられずに、送り出すことになっちゃった。本当に本当に、ごめんね。そんな先輩だったのに、最後にひと言、言いに来てくれてありがとう。


・・・そんな想いが言葉にならずに、後輩を目の前に、ただただ涙があふれた。


ペースの違う人と歩むということ


組織だから色んな人と一緒に歩まなくてはいけない。それは時にとても非効率で、組織としてどこまでそれを許容すべきか、私にはまだ分からない。


でも、誰かと正面から向き合うことで、きっと一人の人間として学ぶことはとても多いのだろうと思う。今回の私は、ちょっと手遅れだったけど・・・。


いつかまた後輩と一緒に仕事をする時は、ちゃんとキラキラさせてあげたい。