最後の一冊

「すごくステキな本だから、見せたいと思いまして…」


上司の隣の席に座って、パラパラとページをめくりながらストーリーを説明しはじめる私。


またなんか変なこと言い出したぞ、コイツ…という表情で、半分呆れながらも付き合ってくれる上司。


◆◆◆


その本はこれ。絵本。


アームストロング: 宙飛ぶネズミの大冒険

アームストロング: 宙飛ぶネズミの大冒険

青山ブックセンター六本木で買った。


私の大好きな本屋さん。でも、もうすぐ閉店してしまう。最後にもう一度行かなくちゃと思って、仕事の帰りに六本木まで足を延ばした。


本屋さんには、あたり前だけど本当に色んな本があって、私は、本棚を眺めているだけで嬉しくなる。自分の知っていることなんて、世の中のごくごく一部。まだまだこんなに知らない世界がある。あぁ、世界はなんて広いんだ〜!って。


そんなことを考えながらゆっくりと本棚をめぐる。ほんとうに幸せな時間。


そうして出会ったのがこの絵本。「アームストロング」


ビニールがかかってたから中身は見られなかったけど、もうそのタイトルだけでワクワクした。人類ではじめて月に降り立った、アポロ11号のアームストロング船長の名前。そして、表紙の絵がとてもきれいだった。小さく可愛らしいネズミと、そんな愛らしさとは不釣り合いなほど精巧に描かれた宇宙船。


◆◆◆


近くのカフェに入って、さっそくページを開く。


好奇心に目をキラキラさせ、可能性を信じ、ひたむきに努力を重ねる小さなネズミの物語だった。めざすは月。


毎晩、望遠鏡で月を観察していたちっちゃなネズミ。月の魅力を仲間のネズミたちに語るんだけど、みんなは「月=チーズ」だと思っていて、誰も信じてくれなくて。そんなある日、おじいさんネズミに、昔、空を飛んだネズミがいたことを聞く。そして思う「あの月へだって、飛んでいけるかもしれない」と。それから一生懸命に勉強して、月に行くためにあれこれ試行錯誤。何度も失敗。大失敗もしたけど、ついには月へ…。


っていう、私のまとめじゃ、ぜんっぜんっ味気ないんだけど(泣)、その可愛らしい絵もあいまって、とにかくステキな絵本だった。


◆◆◆


人は必要な時に必要な本に出会えるんだと思う。陳腐な言葉になっちゃうけど、自分がめざすものを心に描き続けよ、ピュアにまっすぐに追いかけよ、って言われてる気がした。


私の仕事は会社の新しい事業を考えること。でも、思い通りにならないことも多い。既存の事業が優先だったり、私にはよく分からない社内の力学もあったり。この間、検討していた新事業をひとつ諦めなくちゃいけなくなったのもあって、なんとなくネガティブモードだった。心に怒りを抱えていたというか。


この本には、そういうゴタゴタを遠くに追いやって、まっすぐに私の心に響いてくるものがあった。心がささくれだった時はここに帰ってこようって思う、そういう絵本。


で、上司にもこの本を見せたいなって。上司の肩には、いつもたくさんのものが乗っかっちゃってるからさ。


◆◆◆


最後のページまで説明し終わって、上司の顔を見ると、やっぱりちょっと呆れ顔…!?


でも、笑顔!!


そして「確かにいい本だな」って。


「いつか宇宙事業部つくってください。そしたら、この本、寄贈するので。」


いつか宇宙にも事業領域を拡げることを夢見て、私は言ってみた。(注:適当に言ったわけではなくて、うちの部としても宇宙に目を向けていく方針ではある)


「お前が自分でつくればいいんだよ」


「え?私? そ、そ…そうですよね!! 」


私、宇宙事業部長になっちゃうか~!!そんなのちょっとワクワクするじゃないか~!(単純)


なんかちょっと楽しくなった。


絵本を上司に見せて、なんなら上司も元気になあれ!とか思ってたけど、むしろ私の方が「自分がやりたいことをやればいい」って上司に励ましてもらったんだと思う。


いつかこの本を寄贈する日まで、がんばろ!


◇◇◇


最後に。


青山ブックセンター六本木店さん、あの空間で出会った一冊一冊に、こうして私だけの小さな物語が刻まれています。これまで、たくさんのステキな本との出会いをありがとうございました。